AI副業の始め方で最初に確認するのは、案件やAIツールではなく勤務先のルールです。会社員がAIライティングや資料作成などの案件を業務委託で受ける場合も、就業規則上の副業・兼業に該当する可能性があります。
まずは、勤務先のルール→案件情報→AIツール→税務の順に確認してください。許可制なら承認前に開始せず、届出制なら提出期限や変更届の要否を確認します。競業、情報漏えい、会社資産の利用などの懸念を解消できない案件は、条件を変更するか断る判断が必要です。
この記事では、会社員がAI副業を始めてよいかを判断するために、就業規則の読み方、会社への確認事項、生成AIの安全な利用条件、税務上の確認ポイントを整理します。案件の探し方や収益化の方法ではなく、開始前のリスク判定に焦点を当てています。
AI副業の始め方は案件探しより先に勤務先のルール確認から始める
厚生労働省は、副業・兼業について、他社に雇用される場合だけでなく、個人事業、請負、委託、準委任契約による業務も含めて説明しています。そのため、クラウドソーシングで受けるAIライティングや資料作成も、「雇用されていないから副業ではない」とは限りません。
AI副業を始めてよいかを先に判断する理由
AIを使っているかどうかにかかわらず、勤務先の規定、守秘義務、競業、利益相反、情報セキュリティのルールが適用される可能性があります。開始前に、次の点を確認してください。
- 副業・兼業・自営・請負・業務委託が規定の対象か
- 会社の許可や届出が必要か
- 本業と副業が競業関係や利益相反にならないか
- 本業の勤務時間や業務に支障が出ないか
- 会社の秘密情報、顧客情報、個人情報を扱わないか
- 会社の端末、アカウント、回線、クラウドを使わないか
開始前に確認する順番

- 就業規則、雇用契約、誓約書、社内ポータルを確認する
- 案件の契約形態、相手方、業務内容、作業時間を整理する
- 入力情報、保存方法、納品物の権利処理を確認する
- 使用するAIサービス、端末、アカウントの条件を確認する
- 必要な許可・届出と税務上の手続きを確認する
就業規則・雇用契約・社内ポータルで確認する項目
就業規則だけでなく、雇用契約書や誓約書、秘密保持契約、社内ポータルの申請規程まで確認します。就業規則に副業の記載が見当たらなくても、自由に開始できると決め付けないでください。
就業規則で検索するキーワード
PDFや社内ポータルを検索するときは、次の語句を使うと関連条文を見つけやすくなります。
- 副業、兼業、兼職、自営
- 業務委託、請負、準委任
- 競業、競業避止、利益相反
- 秘密保持、営業秘密、情報セキュリティ
- 会社資産、社用端末、アカウント
- 生成AI、AI利用、届出、許可
副業の条文だけでなく、服務規律、懲戒、秘密保持、情報セキュリティ、会社資産の利用に関する規程も確認してください。
雇用契約や誓約書の守秘義務・競業条項
雇用契約書、労働条件通知書、誓約書、秘密保持契約に、守秘義務や競業避止に関する記載がないか確認します。
本業と似たライティングや資料作成であっても、業務内容が似ているだけでは判断できません。本業の取引先、競合企業、社内情報との関係を案件ごとに整理しましょう。
社内ポータルで確認する申請・届出
社内ポータルでは、副業申請規程、申請書、届出フォーム、社内FAQ、情報セキュリティ規程、AI利用規程を確認します。
申請書に副業内容、作業時間、作業場所、使用ツール、情報管理方法の記載欄がある場合は、案件を受ける前に情報を整理します。案件の追加、相手方やAIツールの変更、作業時間の増加時に、変更届や再申請が必要かも確認してください。
副業禁止・許可制・届出制など文言別に取るべき対応

見出しだけで判断せず、条文全体と申請手続きまで確認します。主な文言ごとの確認ポイントは次のとおりです。
| 規定の文言 | 確認すること | 開始時の対応 |
|---|---|---|
| 副業禁止 | 請負・委託や例外許可の対象 | 対象範囲が不明なら開始しない |
| 許可制 | 承認前の契約・作業の可否 | 承認後に開始する |
| 届出制 | 提出期限・確認・変更届の要否 | 届出条件を確認して提出する |
| 申告不要 | 競業・秘密保持・資産利用の規定 | 別規程を確認して判断する |
厚生労働省のモデル就業規則は、届出を前提に一定の場合に会社が副業・兼業を禁止・制限する構成です。ただし、モデル就業規則は各企業の規定そのものではありません。勤務先の就業規則や社内規程が優先されます。
「副業禁止」「原則禁止・例外許可」の場合
「副業禁止」と書かれていても、AI副業だけが自動的に例外になるとはいえません。個人事業、請負、業務委託が対象に含まれるか、例外許可の条件や申請先があるかを確認します。
原則禁止・例外許可の場合は、会社が定める業種、時間、競業、情報管理などの条件を確認し、許可を得るまで開始しない整理が必要です。
「許可制」と「届出制」の場合
許可制では、承認前に契約や作業を始めてよいかを確認します。案件変更時に再申請が必要かも確認してください。
届出制では、届出だけで開始できるのか、会社による確認や条件付けがあるのかを確認します。提出期限や変更届の要否も、社内規程に従って判断します。
申請不要・判断に迷う場合
申請が不要でも、競業避止、秘密保持、情報セキュリティ、本業への支障、会社資産の利用禁止などの規定は適用される可能性があります。
条文の意味が分からない、申請先が見つからない、案件が競合するか判断できない場合は、人事、労務、コンプライアンス担当などへ確認します。記載がないことだけを理由に開始するのは避けてください。
AI副業の案件を受ける前に確認したいリスク
案件を見つけたら、報酬や納期だけでなく、情報、権利、競業、作業環境を確認します。
社内資料・顧客情報・個人情報をAIに入力しない
勤務先や発注者の許可なく、社内資料、顧客情報、個人情報、営業秘密、未公開情報を生成AIへ入力しないでください。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスへ入力した個人情報が機械学習に利用され、他の情報と結び付いて出力される可能性について注意喚起しています。
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
入力が必要な場合は、匿名化、架空データへの置き換え、AIを使わない作業方法を発注者と確認します。確認できない場合は、案件を受けない判断も必要です。
生成AIの利用条件と生成物の権利を確認する
料金プランや設定だけで、情報管理上の問題が解消されるわけではありません。入力データの扱い、保存期間、管理者アクセス、学習利用、契約条件をサービスごとに確認します。
OpenAIは、ChatGPT Business、Enterprise、Edu、APIなどの組織向けサービスについて、原則として入力・出力をモデル訓練に使用しないと説明しています。ただし、サービスの契約条件、勤務先の規程、発注者との契約は別に確認してください。
OpenAI「Enterprise privacy at OpenAI」
AIで生成した文章や画像だから自由に商用利用できる、利用者が必ず著作権を取得する、と一律には判断できません。納品物の類似性、依拠性、第三者の権利、契約上の利用範囲を確認し、納品前に人が内容を確認します。
競業避止義務・利益相反・取引先との関係
作業時間が勤務時間外でも、本業と競業関係にある企業の案件や、本業の取引先に関係する案件は確認が必要です。
たとえば、本業が広告会社で、副業として競合広告会社の案件を受ける場合は、競業避止義務、利益相反、本業の取引先との関係、社内情報の利用有無を整理します。迷う場合は自己判断で開始せず、会社へ確認してください。
本業時間中の作業や会社資産の利用
勤務時間外であっても、会社支給PC、社用アカウント、社内クラウド、会社契約のAIアカウント、会社負担の回線を副業に使ってよいとは限りません。
副業専用の端末やアカウントを用意する場合も、勤務先の規程で許可されているか確認します。本業時間中の作業や会社資産の無断利用は避けてください。
会社への確認・副業申請に向けて準備する情報
会社へ相談するときは、「AIを使って副業をしたい」だけでなく、業務内容と管理方法を具体化します。
副業内容と案件の概要
- 副業の名称と契約形態
- 案件の概要と相手方
- 作成する成果物
- AIを使う工程と、人が確認する工程
- 本業との競合可能性
作業時間・場所・端末・アカウント
作業する曜日や時間帯、場所、端末、アカウント、使用するAIサービスを記載します。本業の勤務時間、会社の設備、社用アカウントと分離できているかも確認してください。
本業と副業の双方で雇用契約に基づく労働をする場合は、労働時間の通算や健康管理が論点になります。請負・委託でも、実際の指揮命令関係や作業実態が問題になる場合があるため、作業記録を残しておきます。
情報管理と本業への影響
AIへ入力する情報、保存場所、アクセスできる人、削除方法、納品前の確認者を整理します。社内資料や顧客情報を入力しない運用、匿名化の方法、ファイルの分離も記載対象です。
納期が本業に影響しないか、競業や利益相反がないか、案件変更時に再確認が必要かも確認します。
会社へ質問するときに使える確認文面
次の文面に、実際の案件情報を補って使用できます。
副業・兼業に関する社内規程について確認したく、ご連絡しました。業務委託で、文章または資料を作成する案件を検討しています。作業は勤務時間外に、私物端末と副業用アカウントで行う予定です。勤務先の資料、顧客情報、個人情報、未公開情報は副業先へ提供せず、生成AIへの入力もしません。勤務先の規程上、案件の相手方や業務内容が競業・利益相反に該当しないか、申請または届出が必要か、開始後に案件や使用ツールを変更した場合の手続きがあるかをご確認いただけますでしょうか。
住民税や業務上の痕跡は隠すのではなく適法に管理する
副業を会社に知られない方法を探すのではなく、所得区分や自治体の手続き、勤務先の申請に沿って管理します。
住民税・所得税で確認すること
給与所得者は、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合など、条件によって所得税の確定申告が必要になります。ただし、この基準は住民税の申告や納付が不要になることを意味しません。
副業の所得区分は、契約内容、継続性、営利性、事業の実態などによって異なります。AI副業だから一律に雑所得と決め付けず、必要に応じて税務署や税理士へ確認してください。
国税庁「給与所得者の確定申告」 / 国税庁「No.1500 雑所得」
給与・公的年金等以外の所得に関する住民税は、自分で納付する方法を選べる場合があります。一方、副業が給与所得の場合は扱いが異なります。住民税によって勤務先に知られないと断定せず、居住する自治体へ確認してください。
申請・勤怠・契約・AI利用の記録を整理する
副業申請、勤怠、作業時間、案件の契約書、報酬、経費、AI利用記録などを整理します。案件の追加、取引先やツールの変更、作業時間の増加があれば、再申請や変更届の要否を確認してください。
発覚を隠す方法ではなくルールに沿って対応する
住民税の処理や社内申請を、勤務先から隠す目的で行うことは案内できません。正確な所得情報をもとに税務上の手続きを行い、社内規定に沿って必要な申請・届出を実施します。
AI副業案件の開始可否を4段階で判定する

案件ごとの確認結果を、次の4段階に分けると判断しやすくなります。これは公的な判定基準ではなく、確認事項を整理するためのフレームです。
そのまま受ける案件
社内規定上の申請・届出を済ませ、競業や利益相反がなく、会社情報を使わず、作業時間・端末・アカウントも分離できている場合です。契約上の権利処理とAIサービスの利用条件も確認してから開始します。
条件を変更する案件
案件そのものではなく、作業方法に懸念がある場合は、次のような変更が可能か発注者へ確認します。
- 個人情報や秘密情報を匿名化する
- 架空データへ置き換える
- AIへ入力せずに作業する
- 私物端末と副業用アカウントへ分ける
- 権利処理が確認できる素材へ変更する
会社に確認してから受ける案件
本業と似た業務、競合する可能性のある相手方、本業の取引先に関係する案件は、勤務時間外であっても会社へ確認します。許可制の場合は、承認前に契約・作業を始めてよいかも確認してください。
断る案件
会社の秘密情報を入力するよう求められる、競業関係を解消できない、承認前に作業を求められる、権利処理が不明な素材を使う必要がある場合は、懸念が解消されるまで受けません。
会社員がAI副業を始める前に行う確認手順と判断後の行動
最初に就業規則・雇用契約・社内制度を確認する
- 就業規則で副業、兼業、競業、秘密保持を検索する
- 雇用契約書、誓約書、秘密保持契約を確認する
- 社内ポータルで申請、届出、AI利用、情報セキュリティの規程を確認する
- 不明点と申請先を一覧にする
副業内容・作業時間・使用ツール・情報管理を整理する
案件ごとに、契約形態、相手方、成果物、作業時間、作業場所、端末、アカウント、入力情報、保存方法、納品条件を記録します。
開始・条件付き開始・保留・中止を決める
- 開始:規定、情報管理、競業、作業環境に確認すべき問題がない
- 条件付き開始:匿名化、端末分離、作業方法の変更で確認事項を解消できる
- 保留:会社の許可、届出、競業関係などの回答を待つ
- 中止:規定違反や情報漏えいなどの懸念を解消できない
判断後に確認するAIツールの利用条件
AIサービスを使う場合は、入力データ、学習利用、保存期間、管理者アクセス、第三者提供、出力の権利を確認します。政府のAI事業者ガイドラインでも、利用目的、入力データの権利・適法性、出力の正確性、第三者の権利、セキュリティ、説明・記録などを確認する考え方が示されています。
副業開始後も、案件、取引先、使用AI、作業時間、報酬形態が変わったときは、勤務先の規定に照らして再確認します。
よくある質問
就業規則に「副業禁止」と書かれている場合、AI副業も始められませんか?
AI副業だから例外になると自己判断しないでください。個人事業、請負、委託が条文の対象か、例外許可の条件があるかを確認し、不明な場合は人事や担当部署へ相談します。
勤務時間外にAI副業をすれば会社への申請は不要ですか?
作業時間だけでは判断できません。副業区分、申請制度、競業、利益相反、情報管理、会社資産の利用条件を確認してください。
ChatGPTなどの生成AIに会社の資料を入力してもよいですか?
社内資料、顧客情報、個人情報、営業秘密、未公開情報は、勤務先や発注者の許可なく入力しないでください。匿名化やAIを使わない方法、サービスの利用条件も確認します。
会社にAI副業の申請や確認をするとき、何を伝えればよいですか?
副業内容、契約形態、案件の概要、相手方、作業時間、作業場所、使用端末・アカウント、AIへの入力情報、秘密情報の扱い、本業との競合可能性、変更時の再申請要否を伝えます。
会社に副業を知られないように住民税の手続きをする方法を知りたいです。
隠す方法ではなく、所得区分と居住自治体の案内に基づいて手続きしてください。副業が給与所得か、それ以外の所得かで住民税の扱いが異なるため、勤務先の規定と自治体の案内を確認します。
本業と似たライティングや資料作成の案件は受けてもよいですか?
業務内容が似ているだけで一律には判断できません。競業避止義務、利益相反、本業の取引先との関係、会社情報の利用有無を案件ごとに確認し、迷う場合は会社へ相談します。
まとめ
AI副業の始め方で最初に行うことは、案件探しやツール選びではなく、勤務先のルール確認です。
- 就業規則、雇用契約、誓約書、社内ポータルを確認する
- 許可制、届出制、原則禁止、申告不要のどれに当たるか整理する
- 案件の競業、利益相反、情報管理、作業時間、使用端末を確認する
- 必要なら会社へ確認・申請し、承認や回答前の開始を避ける
- 住民税や所得税は隠すのではなく、税務上の手続きに沿って管理する
まずは社内ポータルで「副業」「兼業」「競業」「秘密保持」「生成AI」「届出」「許可」を検索し、確認できた規定と不明点をメモしてください。そのうえで案件情報を整理し、開始、条件付き開始、保留、中止のいずれかを判断しましょう。
